日本のモバイルインターネット産業を牽引してきたDeNA(2432)が今、大きな転換点を迎えています。ここ数日の株式市場において、同社株は静かながらも力強い胎動を見せ始めました。2月6日、同社株は前日比2.73%の上昇を見せ、続く7日にも堅調な推移を維持しています。この動きの背景には、単なる短期的な投機資金の流入ではなく、同社の事業構造の変化と将来のキャッシュフローに対する投資家の期待値の修正があります。特に注目すべきは、世界的なIPを活用したゲーム事業の成功と、長年育成してきた非ゲーム事業の収穫期が重なりつつある点です。本稿では、最新の決算データと市場ニュースを基に、DeNAという企業の「今」を投資家の視点から解剖していきます。
まず、株価の現状をテクニカル分析の観点から冷静に評価してみましょう。投資家のセンチメントを測る重要な指標であるRSI(相対力指数、14日)は現在58.44を示しています。一般的にRSIが70を超えると「買われすぎ」、30を下回ると「売られすぎ」と判断されますが、現在の水準は「上昇トレンドにあるものの、過熱感はない」という非常に居心地の良いゾーンに位置しています。これは、ニュースに飛びついた短期筋の乱高下が落ち着き、実需を伴う買いが入り始めていることを示唆しています。一方で、独自の分析スコアが40となっている点は、まだ本格的な強気相場への転換を確信するには至っていない、市場の「迷い」も反映しています。しかし、直近の変動率がプラス圏で推移していることは、底打ちからの反転攻勢の狼煙と捉えることもできるでしょう。
この株価動向を裏付けるファンダメンタルズの変化として、最もインパクトが大きいのが子会社GO株式会社(旧Mobility Technologies)の東京証券取引所への上場申請です。タクシー配車アプリとして圧倒的なシェアを持つ「GO」のIPOは、DeNAが抱える「含み益」を顕在化させる触媒(カタリスト)として機能します。市場は長らくDeNAを「ゲーム一本足打法」の企業として評価しがちでしたが、このIPOは同社が多角化経営において実質的な価値を生み出していることを証明するイベントとなります。これにより、コングロマリット・ディスカウント(複合企業ゆえの過小評価)が解消され、企業価値の再計算が行われる可能性が高まっています。
一方で、2月5日に発表された2025年3月期第3四半期の決算内容は、一見すると複雑な印象を与えます。IFRS(国際会計基準)ベースでの営業損益は81億円の赤字となりましたが、これには「のれん」の減損損失という会計上の処理が大きく影響しています。投資家として冷静に見るべきは、一時的な要因を除いたNon-GAAPベースの営業利益が21億円の黒字を確保している点です。つまり、本業で現金を稼ぐ力は失われておらず、むしろ過去の負の遺産を清算し、身軽になったと解釈することも可能です。特にゲーム事業では、「Pokémon Trading Card Game Pocket」がグローバルで爆発的なヒットを記録しており、これが今後の収益の柱として期待されています。ダウンロード数の伸びと高い定着率は、来期以降の業績にフル寄与してくるでしょう。
さらに、投資家にとって見逃せないのが配当政策の変更です。DeNAは配当の基準を従来の配当性向から、DOE(株主資本配当性向)へと移行する方針を示しました。ゲーム事業はヒット作の有無によって利益が大きく変動するため、利益連動型の配当では株主への還元が不安定になりがちです。しかし、DOEを採用することで、純資産に基づいた安定的かつ継続的な配当が約束されることになります。これは、同社の財務基盤(自己資本比率の高さ)への自信の表れであり、長期保有を前提とする機関投資家や個人投資家にとっては非常にポジティブなメッセージとなります。ROE(自己資本利益率)が業界平均の11%を上回る15%で推移していることも、資本効率の良さを裏付けています。
もちろん、リスクがないわけではありません。アナリストによるDCF(割引キャッシュフロー)法を用いた評価では、現在の株価は割高であるとの指摘もあります。これは、将来の成長率を保守的に見積もった場合、現在の株価が期待先行で形成されている可能性を示唆しています。また、主力のゲーム事業は依然としてボラティリティが高く、次なるヒット作が継続的に生まれるかどうかの不確実性は常に付きまといます。ライブストリーミング事業における競争激化も、収益圧迫要因として警戒が必要です。しかし、ナラティブ(物語)としての評価では、現在の株価は公正価値に対して割安であるとの見方もあり、市場の評価は二分されています。
結論として、現在のDeNAは「過去の清算」と「未来への種まき」が交錯する極めて興味深いフェーズにあります。GO株式会社の上場による資産価値の顕在化、ポケモンのカードゲームアプリによる収益力強化、そしてDOE採用による株主還元の安定化。これら三つの要素が噛み合えば、株価は現在のもみ合いを抜け出し、新たな上昇トレンドを形成する公算が大きいと言えます。テクニカル指標が示す「過熱感なき上昇」の中に身を置きつつ、ニュースフローに一喜一憂せずに中長期的な企業価値の向上を見守る姿勢が、この銘柄と付き合う上での賢明なアプローチとなるでしょう。