日本のテック業界において、常に「次の一手」が注目され続けてきたメルカリ(4385)。その株価が今、再び投資家の熱視線を集めています。直近の市場で記録された10.64%という大幅な株価上昇は、単なる一時的な反発ではなく、同社の収益構造が新たなフェーズに入ったことを示唆する重要なシグナルかもしれません。きっかけとなったのは、2026年6月期第2四半期の決算発表です。市場の予想を遥かに上回る好業績は、これまでの「成長優先で利益は二の次」というテック株特有の懸念を払拭するのに十分なインパクトを持っていました。今回は、この急騰劇の背景にあるファンダメンタルズの変化と、テクニカル指標が発するメッセージを深く掘り下げていきます。
まず、投資家が最も注目すべきは「稼ぐ力」の質的な変化です。発表された決算において、売上収益は1,062.55億円(前年同期比12.8%増)と二桁成長を維持しつつ、営業利益は197.79億円と同73.3%増という驚異的な伸びを記録しました。特筆すべきは、これが単なるコスト削減によるものではなく、事業の多角化が実を結び始めた結果であるという点です。長らく同社の屋台骨を支えてきた国内事業(Japan Business)は、GMV(流通取引総額)が約6,000億円に達し、前年同期比8.3%増と底堅い成長を続けています。フリマアプリ市場は成熟期に入ったとの見方もありましたが、「メルカード」を通じた決済エコシステムの拡大が、既存ユーザーの活性化と新規獲得の両輪を回すことに成功しているようです。
さらに、投資家のセンチメントを大きく好転させたのが、長年の懸案事項であった米国事業(US事業)と、新たな収益の柱であるFintech事業の動向です。米国事業はGMVが前年同期比6.0%増と堅調に推移しており、これまで同社の利益を圧迫する要因と見られがちだった海外展開が、ついに貢献フェーズへと移行しつつある兆しを見せています。また、Fintech事業においては債権残高が41.0%増の3,007億円に達しており、メルカリが単なる「モノの売り買いの場」から、膨大な取引データを活用した「金融プラットフォーム」へと進化していることが数字にはっきりと表れています。
これらファンダメンタルズの好転を受け、会社側も通期予想の上方修正に踏み切りました。売上収益を最大2,200億円、コア営業利益を最大360億円へと引き上げたことは、経営陣が足元の成長持続性に強い自信を持っていることの表れと言えるでしょう。アナリストたちもこの動きを評価しており、市場コンセンサスも切り上がる傾向にあります。
一方で、冷静な投資判断のためにはテクニカル面での分析も欠かせません。現在の株価指標を見ると、RSI(相対力指数・14日)は67.4を示しています。一般的にRSIは70を超えると「買われすぎ」と判断されますが、現在の67.4という数値は、まさにその境界線に迫る水準です。これは、強力な上昇モメンタム(勢い)があることを示す一方で、短期的には利益確定の売りが出やすいゾーンに入りつつあることを警告しています。株価が急激に10%以上上昇した直後であることを踏まえると、一直線に上値を追い続けるよりは、一度調整を挟む可能性もシナリオに入れておくべきでしょう。
また、AIによる分析スコアが「40」となっている点にも留意が必要です。これは、株価の勢いやニュースのポジティブさに対して、長期的なトレンド指標やバリュエーション指標がまだ完全に追いついていない、あるいは一部の指標で過熱感が警戒されている可能性を示唆しています。スコア40は決して高い数値ではありませんが、今回のような「ポジティブサプライズ」による急騰局面では、過去のデータに基づくスコアが現状のファンダメンタルズの変化を織り込むのに時間を要することがあります。したがって、このスコアの低さを悲観的に捉えるよりは、市場の評価が分かれている「好機」と捉える見方もできます。
投資家として考慮すべきリスク要因も存在します。Fintech事業の急拡大は収益への貢献が大きい反面、経済環境が悪化した際の信用リスク(貸し倒れリスク)を高める諸刃の剣でもあります。また、米国市場は競争が激しく、今回の増収基調が今後も継続するかどうかは、四半期ごとの丁寧なモニタリングが必要です。しかし、これらリスクを勘案しても、今回の決算で見せた「利益率の大幅な改善」は、メルカリという企業の体質が筋肉質に変化したことを強く印象づけました。
結論として、現在のメルカリ株は、成長性と収益性のバランスが取れた新たなステージへの移行期にあると言えます。RSIが高水準にあるため、短期的にはボラティリティ(価格変動)が高まる可能性がありますが、中長期的には「国内盤石・米国改善・金融拡大」という三本の矢が機能し始めている点は極めてポジティブです。押し目を待ちつつ、この構造変化が本物であるかを見極める姿勢が、賢明な投資戦略となるでしょう。