かつての重厚長大な電機メーカーというイメージを脱ぎ捨て、デジタルトランスフォーメーション(DX)とAI(人工知能)の旗手として、富士通(6702)が株式市場で鮮烈な輝きを放ち始めています。2026年の幕開けとともに、同社の株価は4,300円台へと駆け上がり、年初来高値を更新しました。この動きは単なる一時的なブームではなく、企業の質的な変化を市場が好感した結果と言えるでしょう。特に投資家の熱視線を集めているのが、生成AIブームの中心にいる米半導体大手エヌビディアとの連携による恩恵への期待感です。今回は、テクニカルな側面とファンダメンタルズの両面から、この「新生・富士通」の現在地と未来を読み解いていきます。
まず、株価の勢いを示すテクニカル指標に目を向けてみましょう。現在のRSI(相対力指数)は61.55を記録しています。RSIは一般的に70を超えると「買われすぎ」、30を下回ると「売られすぎ」と判断されますが、現在の60台前半という数値は、上昇トレンドが明確でありながらも、まだ過熱感による急落のリスクが高まっていない「理想的な巡航速度」であることを示唆しています。分析スコアが59という中立からやや強気の水準にあることも、投機的な乱高下ではなく、実需に基づいた堅実な買いが入っている証左と言えるでしょう。直近の変動率が2.27%と適度なボラティリティを保っていることも、トレーダーと長期投資家の双方にとって魅力的な環境を作っています。
この株価上昇の背景には、強固なファンダメンタルズの裏付けがあります。2025年10月に発表された2026年3月期第2四半期の決算は、市場関係者に衝撃を与えました。営業利益は前年同期比で145.0%増、親会社株主帰属中間利益に至っては635.2%増という驚異的な数字を叩き出したのです。もちろん、この大幅増益には関連会社株式の売却益という一時的な要因も含まれていますが、本業である「サービスソリューション事業」が好調に推移している点は見逃せません。これは、富士通がハードウェア依存から脱却し、高収益なサービス企業へと構造改革を進めてきた努力が実を結びつつあることを意味します。
市場環境を見渡すと、ITサービス業界全体に追い風が吹いています。企業や官公庁のDX投資は留まることを知らず、そこに生成AIの実装ニーズが加わりました。富士通はこの波に乗るための「エヌビディア効果」を最大限に享受できるポジションにいます。国内大手証券による格上げや、投資家センチメント調査で「強く買いたい」という意見が75%を占めていることからも、市場の期待値の高さが窺えます。信用倍率が7.59倍と買い残が多い点は、将来的な売り圧力となる懸念もありますが、現時点では株価上昇への自信の表れと解釈する向きが強いようです。
バリュエーションの観点からはどうでしょうか。アナリストによる平均目標株価は4,414円とされており、現在の株価水準(4,300円近辺)と比較しても、まだ上値余地(アップサイド)が残されています。理論株価の算出においても、PBR(株価純資産倍率)基準では妥当な水準と見なされていますが、PER(株価収益率)基準ではやや割高感が出る場面もあります。しかし、AI関連銘柄としての成長プレミアムを考慮すれば、多少の割高感は許容範囲内と判断されることが多いのが現在の相場つきです。むしろ、ROE(自己資本利益率)や自己資本比率の改善傾向が続いており、財務体質の健全化が進んでいることが、プレミアムを正当化しています。
投資家として考慮すべき機会とリスクについて整理しましょう。最大の機会は、やはりAI需要の本格化と株主還元の強化です。増配や自社株買いへの期待は、株価の下支え要因として機能し続けます。また、時価総額8.9兆円規模の企業がこれだけの成長ストーリーを描けることは稀有であり、安定性と成長性を兼ね備えたポートフォリオの核になり得ます。
一方で、リスク要因も無視できません。世界的な景気減速懸念や、為替市場の変動は、グローバルに展開する富士通の業績に影響を与える可能性があります。また、信用買残が増加傾向にあるため、市場全体が調整局面に入った際には、手仕舞い売りが加速して株価の下げ幅が大きくなるリスクも孕んでいます。「エヌビディア期待」が剥落した場合のセンチメント悪化も、頭の片隅に置いておくべきでしょう。
結論として、現在の富士通は、単なるITベンダーから「サステナビリティ・トランスフォーメーションのパートナー」へと進化する重要な局面にあります。テクニカル指標は健全な上昇トレンドを示し、ファンダメンタルズは構造改革の成果を証明しています。短期的には高値警戒感が出る場面もあるかもしれませんが、中長期的な視点で見れば、デジタル社会のインフラを支える同社の重要性は増すばかりです。押し目があれば、それは長期的な成長ストーリーに参加するための好機と捉えることができるでしょう。投資判断にあたっては、次回の決算発表(2026年1月下旬予定)で、通期見通しの修正や新たな株主還元策が示されるかどうかが、次の重要なマイルストーンとなります。