かつて日本を代表する総合化学メーカーとして君臨しながらも、ここ数年は業績の悪化と株価の低迷に苦しんできた住友化学(4005)。しかし、この2月初旬に市場を駆け巡ったニュースは、同社が長いトンネルの出口に差し掛かっていることを強く印象づけるものでした。投資家の心理は、これまでの「懸念」から「期待」へと急速にシフトしつつあります。今回のコラムでは、最新の決算内容とテクニカル指標の両面から、住友化学の現在地と今後の投資妙味について深く掘り下げていきたいと思います。
まず、市場関係者の度肝を抜いたのは、2月3日に発表された第3四半期(10-12月期)の決算内容です。営業利益が767億円という数字は、前年同期比で3.2倍という驚異的な伸びを示しただけでなく、市場コンセンサスを200億円も上回るポジティブサプライズとなりました。これまで化学セクター、特に汎用石油化学に依存する企業は、世界的な景気減速懸念や原材料価格の高騰により厳しい見方をされてきました。しかし、住友化学が示した数字は、そうした悲観論を払拭する力を持っていたのです。
特筆すべきは、この業績改善が一過性のものではなく、事業ポートフォリオの質的転換に裏打ちされている点です。今回の好業績を牽引したのは、ICT&モビリティソリューション事業、つまり半導体プロセス材料などの高付加価値製品でした。半導体市況は調整局面を経て底打ちし、再び上昇サイクルに入りつつあります。この「時代の追い風」をしっかりと捉え、出荷量を伸ばしている点は高く評価できます。加えて、アグロ&ライフソリューション事業の収益性改善も寄与しており、特定の事業頼みではないバランスの取れた回復が見て取れます。
会社側が通期のコア営業利益予想を従来の1850億円から2000億円へと上方修正したことは、経営陣の自信の表れと受け止めることができます。さらに投資家にとって嬉しいニュースは、年間配当予想の引き上げでしょう。12円から13.5円への増配、そして半期配当の下限設定を示唆したことは、株主還元に対する姿勢が「守り」から「攻め」、あるいは「安定」へと移行したことを意味します。これにより、インカムゲインを重視する投資家層からの資金流入も期待できる土壌が整いました。
ここで、株価の動きをテクニカルな視点から分析してみましょう。現在のRSI(相対力指数)は65.58を記録しています。RSIは一般的に70を超えると「買われすぎ」、30を下回ると「売られすぎ」と判断されますが、現在の65.58という水準は非常に興味深い位置にあります。これは、上昇のモメンタム(勢い)が非常に強いことを示しつつも、まだ危険な過熱域には達していないことを示唆しているからです。つまり、トレンドに乗る余地が残されている「強気の順張り」が機能しやすいゾーンにあると言えます。
一方で、最近の変動率が10.64%と高くなっている点には注意が必要です。これはボラティリティ(価格変動の激しさ)が高まっていることを意味し、短期的には大きな値動きに翻弄されるリスクがあることを示しています。また、AIによる分析スコアが「40」という比較的慎重な数値に留まっている点も見逃せません。これは、直近の株価急騰に対し、長期的な移動平均線やその他のトレンド指標がまだ完全には「強気転換」を確認しきれていない、あるいは急ピッチな上昇に対する反動警戒感がシステム的に検出されている可能性があります。投資家としては、この上昇が本物かどうかを慎重に見極める姿勢も求められます。
市場環境全体を俯瞰すると、化学業界は大きな変革期にあります。脱炭素社会への対応や、汎用品からスペシャリティケミカルへのシフトが生き残りの条件となる中で、住友化学が進めてきた構造改革がようやく実を結び始めたと言えるでしょう。特にICT関連の需要は、AIやデータセンターの拡大に伴い、今後も中期的に拡大が見込まれます。不透明だった事業環境のリスクが後退したとの見方が広がっていることは、同社のバリュエーション(株価評価)の切り上げにつながる重要な要素です。
投資判断におけるリスク要因としては、やはり世界経済の動向、特に中国経済の回復ペースや為替レートの変動が挙げられます。化学メーカーにとってナフサなどの原材料価格と製品価格のスプレッド(利ざや)は業績を左右する大きな要因であり、地政学的なリスクによる原油価格の変動も無視できません。しかし、今回の上方修正が示すように、同社は外部環境の変化に対して一定の耐性をつけつつあるようです。
結論として、現在の住友化学は「再生の初期段階」にあると捉えることができます。RSIが示す上昇余力と、ファンダメンタルズの劇的な改善は、投資家にとって魅力的なエントリーポイントを示唆しています。ただし、ボラティリティの高さと分析スコアの低さを考慮すれば、一度に資金を投入するのではなく、押し目を慎重に拾うようなスタンスが賢明かもしれません。配当の下限設定という安心感を背に、半導体サイクルの波に乗るこの銘柄は、ポートフォリオに変化と成長をもたらす有力な候補となり得るでしょう。かつての名門が再び輝きを取り戻す過程を、市場は今、固唾を飲んで見守っています。