日本の株式市場が年末の取引を締めくくる中、ひときわ強い輝きを放った銘柄があります。国内ITサービス最大手の富士通です。12月30日の取引において、同社株は前日比2.27%高となる4,360円まで上昇し、見事に年初来高値を更新しました。多くの銘柄が年末のポジション調整に押される中、なぜ富士通にはこれほどまでに力強い買いが集まっているのでしょうか。単なる「ハイテク株の買い戻し」という言葉では片付けられない、同社の構造的な変化と市場の評価について、テクニカルとファンダメンタルズの両面から紐解いていきましょう。
まず、株価の勢いを測るテクニカル指標に目を向けると、非常に興味深いシグナルが点灯しています。現在のRSI(相対力指数・14日)は61.68。これは、投資判断において極めて「居心地の良い」水準です。一般的にRSIが70を超えると「買われすぎ」として調整局面が警戒され、30を下回ると「売られすぎ」と判断されます。現在の60台前半という数値は、上昇トレンドが明確でありながらも、決して市場が熱狂しすぎていないことを示唆しています。つまり、まだ上値を追う余地が残されている「健全な上昇」の最中にあると解釈できるのです。分析スコアも64とポジティブな領域にあり、出来高も500万株を超えていることから、一部の投機筋だけでなく、腰の据わった実需の買いが入っていることが推測されます。
この株価上昇の背景にあるのは、明確なファンダメンタルズの裏付けです。特筆すべきは、データ分析企業であるブレインパッド(BrainPad)に対する完全子会社化を目的としたTOB(株式公開買い付け)の開始です。1株2,706円というプレミアムを乗せたこの買収劇は、富士通が従来のシステムインテグレーター(SIer)という枠組みを超え、データとAIを駆使した高付加価値なDXパートナーへと脱皮しようとする強い意志の表れです。市場はこのM&Aを、単なる規模拡大ではなく、成長スピードを加速させるための「時間をお金で買う」戦略として好意的に受け止めています。
業績面においても、富士通の変革は数字として結実し始めています。2026年3月期第2四半期の決算では、営業利益が前年同期比145.0%増の1,053億円、中間利益に至っては635.2%増という驚異的な伸びを記録しました。これには関連会社株式の売却益という特殊要因も含まれますが、本業であるサービスソリューション事業が好調であることが何よりの安心材料です。自己資本比率は約50%と財務の健全性は盤石であり、ROE(自己資本利益率)も12%台へと向上しています。かつての重厚長大企業のイメージから、高収益体質への転換が着実に進んでいる証左と言えるでしょう。
市場参加者の心理、いわゆるセンチメントも改善傾向にあります。投資家掲示板やSNSでは、現在のPER(株価収益率)19倍台という水準に対し、「まだ割安である」との見方が強まっています。グローバルなITコンサルティング企業と比較すれば、PER25倍から30倍まで評価されてもおかしくないという「水準訂正(リレイティング)」への期待です。実際に米系大手証券が目標株価を大幅に引き上げるなど、プロの投資家の間でも評価を見直す動きが出ています。信用買残が増加傾向にあるものの、貸借倍率は需給を圧迫するほどではなく、むしろ先高観を持つ投資家が多いことを裏付けています。
もちろん、リスクがないわけではありません。世界的な景気減速懸念が企業のIT投資を鈍らせる可能性や、M&A後のPMI(統合プロセス)がスムーズに進むかどうかの不確実性は残ります。また、直近の急ピッチな上昇により、短期的には利益確定売りが出やすい水準であることも事実です。投資家心理調査では「様子見」が6割を占めていることからも、高値掴みを警戒する慎重な姿勢も垣間見えます。
しかしながら、長期的な視点に立てば、富士通は今、非常に魅力的な局面にあります。日本企業全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)を急ぐ中、その中核を担う同社の重要性は増すばかりです。配当利回りは決して高くはありませんが、増配基調にあることや自社株買いなどの株主還元姿勢も評価できます。結論として、現在の富士通株は、テクニカルな過熱感を避けつつ、ファンダメンタルズの改善を織り込みながら上昇する「理想的なトレンド」の中にあります。押し目があれば、それは中長期的な成長ストーリーに乗るための好機となるでしょう。変革を恐れず、新たな領域へと踏み出す富士通の次の一手に、市場の熱い視線が注がれています。