半導体業界の巨人たちが一堂に会したCES 2026の熱気が冷めやらぬ中、市場は冷徹な審判を下しました。リサ・スーCEOが登壇し、次世代AIチップ「MI440X」や「MI500シリーズ」のプレビューを高らかに発表した1月5日、多くの投資家は株価のさらなる飛躍を期待していました。しかし、現実は残酷でした。発表直後に株価は約9%もの急落を見せ、市場には「材料出尽くし」という言葉が重くのしかかりました。この動きは、現在のAI半導体ブームがいかに高い期待値の上に成り立っているかを如実に物語っています。しかし、この下落を単なる失望売りと片付けてしまうのは早計かもしれません。経験豊富な投資家であれば、市場の感情的な反応の裏にあるファンダメンタルズとテクニカルのシグナルを冷静に読み解く必要があります。
まず、足元の株価動向をテクニカル分析の視点から紐解いてみましょう。現在のRSI(相対力指数)は14日ベースで54.66を示しています。RSIは通常、70を超えれば買われすぎ、30を下回れば売られすぎと判断されますが、現在の数値はまさに「中立」の領域にあります。これは、CES後の急落によって過度な熱狂が冷やされ、売り圧力と押し目買いの需要が均衡しつつあることを示唆しています。一方で、最近の変動率(ボラティリティ)は6.39%と依然として高く、投資家の迷いや神経質な展開が続いていることを表しています。分析スコアの62という数字も、強気一辺倒ではないものの、決して悲観すべき状況ではないことを裏付けています。つまり、テクニカル面では「嵐が過ぎ去り、次の方向性を模索している段階」と言えるでしょう。
ファンダメンタルズに目を向けると、AMDが置かれている状況は依然として「NVIDIAへの挑戦者」という構図です。業界の絶対王者であるNVIDIAとの競争は激化の一途をたどっています。TSMCのCoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)パッケージング技術の生産能力確保が勝敗の鍵を握る中、2026年のGPU陣営(NVIDIAとAMD)向けの割り当ては約75万枚に達すると見られています。しかし、ここで重要なのは、AMDがそのパイのどれだけを確実に収益化できるかです。CESでの発表が「期待外れ」と捉えられた背景には、圧倒的な性能差を見せつけるNVIDIAの「B300」などに対し、AMDの新製品が市場の勢力図を即座に塗り替えるほどのインパクトを欠いたという評価があるようです。
それにもかかわらず、アナリストたちの視線は決して冷ややかではありません。Keybancが投資判断を「Overweight」に引き上げ、目標株価を270ドルに設定したことは注目に値します。現在の株価水準(200ドル近辺)から見れば、十分なアップサイドが残されているという見立てです。バーンスタインなども長期的な視点での購入を推奨しており、その根拠はAIおよびデータセンター向け需要の構造的な成長にあります。AMDは過去12ヶ月で収益を21.71%増加させており、2025年のAI GPU販売目標を62億ドルとしています。2028年には市場規模が5,000億ドルを超えると予想されるこの分野において、たとえ「2番手」であっても、そのシェア拡大がもたらす果実は計り知れません。
投資家が今、最も注視すべきは2月3日に予定されている決算発表です。CESでの失望を払拭できるかどうかは、この決算で示されるデータセンター部門の具体的な数字にかかっています。特に、ハイパースケーラー(巨大IT企業)からの認定プロセスが順調に進んでいるか、そして実際の受注残が積み上がっているかが焦点となります。1月9日には行使価格200ドルのオプション取引が活況を呈しており、市場参加者の多くがこの200ドルというラインを重要な防衛線、あるいは反発の起点として意識していることが窺えます。
リスク要因として忘れてはならないのは、巨額の研究開発投資と地政学的な輸出規制の影響です。NVIDIAに追いつくためには莫大な投資が必要であり、それが短期的には利益率を圧迫する可能性があります。また、米中対立の激化による先端半導体の輸出規制は、AMDにとっても無視できない懸念材料です。しかし、そうしたリスクを織り込んだ上でも、現在の株価調整は長期的な成長ストーリーを信じる投資家にとっては、エントリーの好機となる可能性があります。
結論として、AMDへの投資は現在、忍耐と洞察力が試される局面にあります。CES後の下落は、過剰な期待が剥落した健全な調整と捉えることも可能です。テクニカル指標が示す中立性は、パニック売りが収束したことを示しています。次の大きなカタリストは2月の決算です。もしそこで、AI半導体市場での確固たる地位と収益化の道筋が数字で証明されれば、現在の株価水準は振り返った時に「絶好の買い場」だったと評価されることになるでしょう。NVIDIA一強と思われがちな市場ですが、巨大なAI需要は単一の供給者では満たせません。その「受け皿」としてのAMDのポテンシャルを、冷静に見極める時が来ています。