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日本株2025년 12월 24일

シリコンサイクルの谷底か、AIの夜明けか:SUMCOが直面する試練と好機

SUMCO Corporation3436
日本株

重要な要約

世界第2位のシリコンウェハメーカーSUMCOが、AI需要の恩恵と既存市場の低迷という二律背反の状況に置かれています。直近の決算での赤字転落やゴールドマン・サックスによる保有比率引き下げといった逆風の中で、テクニカル指標は底堅さを示唆しています。PBR1倍近辺という歴史的な割安水準にある今、投資家はこの銘柄を「落ちるナイフ」と見るべきか、それとも「夜明け前」と捉えるべきか、詳細に分析します。

半導体市場の「スーパーサイクル」という言葉が踊る昨今、その最上流に位置する素材メーカーの株価動向は、市場全体の健全性を測るための炭鉱のカナリアとも言えます。今回取り上げるのは、半導体の基板となるシリコンウェハで世界シェア2位を誇るSUMCO(3436)です。AIブームの熱狂とは裏腹に、同社が直面しているのは極めて厳しい現実と、その先に微かに見える希望の光です。直近のデータと市場の声を交えながら、この銘柄の現状と投資妙味について深く掘り下げていきましょう。

まず、直視しなければならないのは、同社のファンダメンタルズ(基礎的条件)が現在、強烈な逆風に晒されているという事実です。2025年12月期第3四半期の決算発表は、多くの投資家にとって冷や水を浴びせられるような内容でした。売上高こそ前年同期比で微増を確保したものの、営業利益は80%を超える大幅減益となり、最終損益に至っては約10億円の赤字に転落しました。これは単なる一時的な不調というよりも、シリコンサイクルの谷がいかに深いかを如実に物語っています。

この苦境の主因は明確です。生成AI向けの最先端ウェハ需要は確かに旺盛ですが、それ以外のスマートフォンやパソコン、そして一部の車載向けといった汎用製品の需要回復が想定以上に遅れているのです。シリコンウェハ産業は巨額の設備投資を必要とする装置産業であり、高い稼働率を維持できなければ、減価償却費という重い固定費が利益を食いつぶす構造になっています。「AIは好調だが、それ一本では会社全体を支えきれない」というのが、現在のSUMCOの偽らざる姿でしょう。

さらに投資家の心理を冷やしたのが、機関投資家の動きです。2025年12月下旬、米ゴールドマン・サックス証券がSUMCO株の保有比率を引き下げたことが判明しました。保有比率が5.69%から4.83%へと低下したこの動きは、いわゆる「5%ルール」に基づく報告で明らかになったもので、大手海外勢が同社株に対して慎重、あるいは売り姿勢にあることを示唆しています。需給面での重石となるこのニュースは、短期的には株価の上値を抑える要因として機能し続ける可能性があります。

しかし、相場の世界には「陰極まれば陽となる」という格言があります。これだけの悪材料が出尽くした中で、株価の動きには底堅さも見え始めています。ここでテクニカル分析の視点を取り入れてみましょう。現在のRSI(相対力指数)は14日ベースで56.41を示しています。RSIは買われすぎか売られすぎかを判断する指標ですが、一般的に30以下で売られすぎ、70以上で買われすぎとされます。56という数値は、市場がパニック売りを脱し、かといって熱狂的な買いにも至っていない、極めてニュートラルな「凪」の状態にあることを意味します。

特筆すべきは、直近の変動率がプラス2.49%で推移している点です。悪材料が相次ぐ中でも株価が崩壊せず、むしろじりじりと値を戻そうとしている動きは、市場がすでに「最悪期」を織り込みつつある可能性を示唆しています。分析スコアの62という数字も、決して絶好調とは言えませんが、悲観一色ではないことを裏付けています。投資家たちは、現在の赤字決算というバックミラーの映像ではなく、フロントガラスの先にある「在庫調整の終了」と「本格的な回復」を探り始めているのです。

バリュエーション(企業価値評価)の観点からも、興味深い水準にあります。現在の株価はPBR(株価純資産倍率)で1倍近辺に位置しています。これは理論上、会社が解散した際に株主に残る価値と同等の水準で取引されていることを意味し、これ以上の下値余地が限定的であることを示唆する「岩盤」とも言えるラインです。みんかぶ等のAI株価診断が「割安」と判定しているのも、この歴史的な低評価を根拠としています。世界トップクラスの技術力とシェアを持つ企業が、解散価値同然で評価されている現状は、長期投資家にとってはまたとないエントリーの機会に見えるかもしれません。

もちろん、リスクは依然として存在します。最大の懸念は、非AI分野の需要回復がいつになるかというタイムラインの不透明さです。もし世界経済の減速によってスマホやPCの買い替えサイクルがさらに後ろ倒しになれば、工場の稼働率は上がらず、赤字体質からの脱却も遅れるでしょう。また、有利子負債が増加傾向にある点も、金利上昇局面では財務的なリスク要因となり得ます。自己資本比率は約50%と健全性は保たれていますが、現金を生まない時間が長引けば、その強固な基盤も揺らぎかねません。

投資家として今、SUMCOをどう評価すべきでしょうか。結論として言えるのは、現在は「勇み足で飛びつく局面」ではなく、「虎視眈々と仕込み時を狙う局面」であるということです。AIという強力な成長エンジンを持っていることは間違いありません。問題は、そのエンジンが船全体を前に進めるほどに、他の重荷(汎用需要の低迷)が軽くなるのがいつか、という一点に尽きます。

ゴールドマン・サックスの売りが一巡し、需給バランスが改善するタイミングを見極める必要があります。また、次の四半期決算などで、会社側から「在庫調整の完了」や「稼働率の底打ち」を示唆するコメントが出るかどうかが重要なシグナルとなるでしょう。RSIが極端な過熱感を示さず、PBR1倍割れスレスレで推移している今は、市場のセンチメントが「恐怖」から「無関心」、そして「期待」へと移り変わる過渡期にあると言えます。

半導体は「産業のコメ」と呼ばれますが、そのコメを作る田んぼ(ウェハ)がなければ何も始まりません。AI時代の到来とともに、高品質な300mmウェハの需要が構造的に増加することは疑いようのない事実です。目先の赤字や機関投資家の売りに惑わされず、シリコンサイクルが再び上昇カーブを描き始めるその瞬間を、冷静な目で見守ることが求められています。今はまだ夜明け前かもしれませんが、夜明けが来ない夜はないのです。

本レポートはInverseOneが分析した資料です。投資判断の最終責任は投資家本人にあります。本レポートは投資推奨ではなく、参考資料としてのみご利用ください。過去の実績は将来の収益を保証するものではありません。