かつて「内燃機関の終わりと共に衰退する」と一部で囁かれた老舗企業が、今、株式市場で鮮やかな復活劇を演じています。日本特殊陶業(NGKスパークプラグ)は、長年培ったセラミックス技術を武器に、EV(電気自動車)や水素社会という新たな時代の潮流に見事に適応しつつあります。直近の株価動向と2026年2月に入ってからのニュースフローは、同社が単なる「守りの銘柄」から「攻めの銘柄」へと変貌を遂げていることを強く印象付けています。本稿では、テクニカル分析とファンダメンタルズの両面から、この銘柄が今なぜ投資家の熱視線を集めているのかを紐解いていきます。
まず、足元の株価の力強さを客観的な数字から確認してみましょう。テクニカル分析において、投資家のセンチメントを図る重要な指標であるRSI(相対力指数、14日ベース)は現在「61.2」を示しています。一般的にRSIが70を超えると「買われすぎ」、30を下回ると「売られすぎ」と判断されますが、現在の60台前半という数値は極めて興味深い水準です。これは、上昇トレンドが明確に発生しているものの、まだ過熱感による調整を心配するほどの水準には達していない「健全な上昇局面」を示唆しているからです。さらに、独自分析によるスコアは「83」という高水準をマークしており、最近の変動率が5.06%に達していることからも、市場参加者が同社の将来性を再評価し、資金流入が加速している様子が窺えます。
この株価上昇の背景には、2026年2月中旬に飛び込んできた決定的なニュースがあります。2月12日、同社はEV向け次世代イグニッションコイルの量産開始を発表しました。特筆すべきは、その供給先に米テスラとホンダが含まれているという点です。これまで「点火プラグ」という内燃機関専用部品のイメージが強かった同社ですが、この発表は、EV時代においても同社の技術が不可欠であることを証明する「ゲームチェンジャー」となりました。市場はこのニュースを好感し、株価は直近高値圏である4,850円付近まで押し上げられています。
加えて、足元の業績もこの期待を裏付けていません。2025年4-12月期の決算では、売上高が前年比8.2%増、営業利益は12.5%増の850億円と、堅調な数字を叩き出しました。ここで注目すべきは、その中身です。従来のプラグ事業だけでなく、排ガス規制や燃費向上に寄与する「センサー事業」が15%もの成長を遂げています。自動車が高度に電子化される中、同社のセンサー技術はEVやハイブリッド車において、以前にも増して重要な役割を果たしているのです。また、円安(1ドル155円水準)の恩恵も輸出比率の高い同社にとっては追い風であり、日経平均株価が38,000円台で推移する良好な地合いも、投資家心理を支えています。
将来の成長ドライバーとして見逃せないのが「水素」への取り組みです。トヨタ自動車との共同実証実験(PoC)において、水素エンジン用プラグの開発で成功を収めたという発表は、長期的な視点を持つ投資家にとって非常に大きな意味を持ちます。完全なEV化への移行期間において、あるいは大型商用車などの分野において、水素エンジンは有力な選択肢となり得ます。ここで主導権を握ることは、同社の収益基盤をより盤石なものにするでしょう。みずほ証券などが水素事業のポテンシャルを高く評価しているのも頷けます。
一方で、投資判断を下す際にはリスク要因にも目を向ける必要があります。第一に懸念されるのは原材料価格の変動です。特にニッケルなどのレアメタル価格が高騰すれば、製造コストを圧迫し、利益率を低下させる可能性があります。また、売上の約15%を占める中国市場への依存も、地政学リスクとして常に頭の片隅に置いておくべきでしょう。さらに、米国におけるEV補助金政策の変更などが起きれば、主要顧客であるテスラの生産計画に影響が及び、間接的に同社の受注に響く可能性もゼロではありません。
しかしながら、現在のアナリストコンセンサスを見ると、強気な見方が優勢です。ブルームバーグの集計によれば、主要証券会社10社のうち8社が「買い」を推奨しており、平均目標株価は5,300円となっています。現在の株価水準(約4,850円)からは約9%の上昇余地が見込まれている計算です。また、予想PER(株価収益率)は15倍程度と、業界平均の17倍と比較しても割安感が残っています。2026年の予想EPS(1株当たり利益)が320円と堅調に推移する見通しであることを考慮すれば、現在の株価は依然としてエントリーしやすい水準にあると言えるでしょう。
総括すると、NGKスパークプラグは「オールドエコノミーの代表格」から「脱炭素社会のキープレイヤー」へと、その評価軸を大きく転換させつつあります。EV向け部品の量産開始やセンサー事業の成長は、同社が構造改革に成功していることの証左です。RSIなどのテクニカル指標が示す上昇トレンドの継続性と、割安なバリュエーションを併せ持つ同社は、中長期的な視点でポートフォリオに組み入れる価値が十分にある銘柄と言えるでしょう。ただし、短期的な過熱感や外部環境の変化には注意を払いながら、押し目を丁寧に拾っていくスタンスが賢明かもしれません。変革期にある企業の強さを、市場は今まさに織り込み始めているのです。