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日本株2025年12月29日

三陽商会:売上減でも利益急増、PER9倍台の「老舗の逆襲」は本物か

Sanyo Shokai Ltd.8011
日本株

重要な要約

かつての名門アパレル、三陽商会が静かなる変貌を遂げています。売上高はピーク時から縮小したものの、純利益は40%超の成長を見せるなど「稼ぐ力」を取り戻しつつあります。テクニカル面でもRSIが63近辺と健全な上昇トレンドを示唆。PER9.6倍という割安水準は、市場がその復活を織り込みきれていない証左かもしれません。流動性リスクを考慮しつつ、その真価を問います。

日本のファッション業界において、三陽商会という名前は特別な響きを持っています。「コートの三陽」として一時代を築き、長年にわたり品質の高さで信頼を得てきました。しかし、投資家の視点から見れば、同社は長らく「苦難の道を歩む企業」として映っていたことも事実です。海外有名ブランドのライセンス契約終了後の低迷は、多くの市場参加者の記憶に新しいところでしょう。ところが今、この老舗アパレル企業に静かな、しかし確実な変化の兆しが見え始めています。2025年末時点での株価は3,860円近辺で推移しており、一見すると派手さはありませんが、その中身を詳細に分析すると、極めて興味深い「筋肉質な財務体質」への転換が浮かび上がってきます。

まず、現在の株価動向をテクニカルな側面から紐解いてみましょう。投資判断の一つの基準となるRSI(相対力指数)は14日ベースで63.23を記録しています。RSIは一般的に70を超えると「買われすぎ」、30を下回ると「売られすぎ」と判断されますが、現在の60台前半という数値は、過熱感がないままに買い需要が継続している「健全な上昇トレンド」の最中にあることを示唆しています。分析スコアも65と、中立よりもやや強気のシグナルが出ています。特筆すべきは、株価が短期(5日)、中期(75日)、長期(200日)のすべての主要移動平均線を上回る水準で推移している点です。これは、短期的な投機筋だけでなく、中長期的な視点を持つ投資家たちが徐々にポジションを積み増していることを意味しており、テクニカル分析の教科書的には非常に底堅いチャート形成と言えます。

しかし、三陽商会を語る上で最も重要なのは、ファンダメンタルズ(基礎的条件)における劇的な構造変化です。直近のデータを見ると、10年前と比較して売上高は0.6倍の水準まで縮小しています。通常、売上がこれほど落ち込めば企業存続の危機ですが、驚くべきことに経常利益は5年平均で27%以上の成長を遂げ、直近の純利益に至っては前期比43.77%増の40億円を叩き出しています。これは何を意味するのでしょうか。それは、同社が「規模の拡大」を追うことをやめ、「利益の質」を徹底的に追求する戦略へシフトしたことが成功している証です。不採算店舗の閉鎖や在庫管理の適正化など、痛みを伴う構造改革を断行した結果、売上規模は小さくなっても、手元に残る利益は確実に増えるという、極めて効率的な収益構造へと生まれ変わったのです。

市場の評価指標であるPER(株価収益率)に目を向けると、現在は9.6倍という水準にあります。日経平均全体のPERが14〜15倍程度で推移することが多い中、10倍を割るこの数字は明確な「割安」シグナルです。アパレル業界全体が成熟産業と見なされ、高い評価がつきにくい傾向はあるものの、これだけの利益成長率と財務改善を見せている企業に対して、市場の評価はまだ慎重すぎると言えるかもしれません。また、主要株主として八木通商が15%を保有している点も見逃せません。業界に精通した戦略的な大株主の存在は、今後の事業展開やM&Aなどの資本政策において、株主価値を高めるカタリスト(きっかけ)になる可能性があります。

一方で、投資家として冷静に見極めるべきリスクも存在します。最も懸念されるのは「流動性の低さ」です。直近のデータでは1日の出来高が4,500株程度にとどまる日も見られます。これは、いざ保有株を売却したいと思った時に、希望する価格ですぐに売れない可能性があることを意味します。機関投資家が参入しにくいこの流動性の低さが、株価が割安に放置されている一因とも言えるでしょう。また、有利子負債の返済スケジュールも注視が必要です。2年以内に返済期限を迎える借入金が約23億円存在しており、金利上昇局面では財務コストの増加が利益を圧迫するリスクがあります。さらに、2026年2月期の売上予想が前期比マイナスとなっているように、トップライン(売上高)の成長ストーリーが描けていない点は、成長株投資を好む層にとっては物足りなさを感じる部分でしょう。

結論として、現在の三陽商会は「成長株」ではなく、極めて魅力的な「ディープ・バリュー(割安)株」としての性質を帯びています。売上の縮小をネガティブに捉えるのではなく、利益率の改善というポジティブな側面を評価できる投資家にとっては、PER9倍台という現在の株価水準はエントリーの良い機会に見えるはずです。派手なニュースや短期的な急騰を期待する銘柄ではありませんが、堅実な経営改革が実を結びつつある今、じっくりと腰を据えて保有することで、市場の再評価を待つ価値は十分にあります。アパレル不況と言われる中で、質実剛健な経営を取り戻した老舗の底力に、改めて注目してみてはいかがでしょうか。

本レポートはInverseOneが分析した資料です。投資判断の最終責任は投資家本人にあります。本レポートは投資推奨ではなく、参考資料としてのみご利用ください。過去の実績は将来の収益を保証するものではありません。