株式市場において、長年「万年割安株」と揶揄されてきた巨大企業が、一夜にして投資家の熱狂の中心となる瞬間があります。2026年2月11日、韓国株式市場を震撼させたLG(および中核子会社LGエレクトロニクス)の動きは、まさにその典型例と言えるでしょう。株価が一日で約23%も急騰し、2020年以来最大の上昇率を記録したこの現象は、単なる短期的な投機資金の流入ではありません。これは、私たちが知っている「家電メーカーのLG」が、「物理AI(Physical AI)とロボットのLG」へと生まれ変わろうとする構造的な転換点(ピボット)を市場が認知し始めた証左です。本稿では、テクニカルなシグナルとファンダメンタルズの両面から、この銘柄が現在どのような位置にあり、投資家にとってどのような意味を持つのかを深く掘り下げていきます。
まず、投資家の心理状態を映し出すテクニカル指標から見ていきましょう。現在、LGのRSI(相対力指数)は14日ベースで67.1を記録しています。一般的にRSIが70を超えると「買われすぎ」と判断されますが、現在の67.1という数値は非常に興味深い水準です。これは、強力な買い圧力が継続しているものの、過熱感による暴落のリスクが直ちに差し迫っているわけではない、いわゆる「強気のスイートスポット」に位置していることを示唆しています。分析スコアが80という高水準にあることも、市場のセンチメントが極めて良好であることを裏付けています。直近の変動率がプラス5.81%(さらにニュースによれば1日で20%超の急騰も記録)であることは、下降トレンドからの明確な脱却と、強力な上昇モメンタムの発生を意味します。チャートは、投資家たちがこの企業の将来に対して自信を取り戻したことを雄弁に語っています。
では、なぜ今、LGなのでしょうか。その答えは「物理AI」というキーワードに集約されます。これまでAIブームといえば、半導体やソフトウェア企業が主役でした。しかし、AIがデジタル空間から物理空間へと進出するフェーズにおいて、LGが持つハードウェアの製造能力とロボット技術が再評価されているのです。最新の報道によれば、LGは家庭用ロボット「Cloi」の枠を超え、物流や産業用ロボットへとAIプラットフォームを拡張しています。RobotisやBear Roboticsといった有力企業への戦略的投資は、単なる提携にとどまらず、LGが本気で「ロボットの頭脳と身体」の両方を支配しようとしている姿勢の表れです。市場は、LGが持つ製造業のノウハウとAI技術(Exaoneモデルなど)の融合に、巨大なシナジー効果を見出しています。
さらに、足元の業績回復も株価上昇を正当化する強力な材料です。2026年第1四半期の営業利益予想は1.61兆ウォンと、前年同期比で28%の増加が見込まれており、市場コンセンサスを大きく上回る見通しです。特筆すべきは、前四半期の赤字からの鮮やかなV字回復です。これは、低収益の家電モデルからの撤退や人員効率化といった構造改革が実を結び始めたことを意味します。加えて、2026年の冬季オリンピックやワールドカップといったグローバルイベントを控え、利益率の高いプレミアムOLED TVの需要増が見込まれることも追い風です。Moody'sが信用格付けをBaa1へ引き上げたことは、財務体質の改善と新事業への投資余力が評価された結果であり、機関投資家にとっては安心して資金を投入できる「お墨付き」となります。
また、ビジネスモデルの質的転換も見逃せません。従来のB2C(消費者向け)中心のビジネスから、B2B(企業向け)へのシフトが着実に進んでいます。特に注目すべきは、AIデータセンター向けのHVAC(暖房・換気・空調)事業です。生成AIの普及によりデータセンターの熱処理が深刻な課題となる中、LGの高効率な冷却技術は、AIインフラを支える不可欠な要素となりつつあります。さらに、車両部品事業が安定した収益源(キャッシュカウ)として定着したことで、同社はボラティリティの高い家電市場の変動を吸収できる強固なポートフォリオを構築しました。Daishin Securitiesなどのアナリストが目標株価を160,000ウォンへと引き上げた背景には、こうした「収益の質の向上」への評価があります。
しかし、投資には常にリスクが伴います。短期間での急激な株価上昇は、一時的な利益確定売りを誘発する可能性があります。また、AIやロボット事業は将来性が高いものの、実際の収益貢献が本格化するまでにはタイムラグがあるかもしれません。投資家は、ニュースの見出しに踊らされることなく、四半期ごとの決算で「AI関連の売上が実際に伸びているか」「家電部門の利益率が維持されているか」を冷静に確認する必要があります。特に、世界経済の減速懸念が家電需要に与える影響は依然としてリスク要因です。
結論として、現在のLG株は、単なる循環的な反発以上の意味を持っています。それは、伝統的な製造業がAIとロボティクスを取り込み、新たな成長企業へと脱皮する過程への投資機会と言えるでしょう。RSIが示す強気のモメンタムと、業績のファンダメンタルズ改善が同期している現在は、中長期的な視点を持つ投資家にとって魅力的なエントリーポイントを探る好機かもしれません。ただし、急騰後のボラティリティには十分注意し、押し目を丁寧に拾う戦略が賢明でしょう。LGは今、私たちが知っている「白物家電の会社」から、「物理世界を動かすAI企業」へと、そのアイデンティティを劇的に変えようとしています。