|
|
|
|
|
|
日本株2025년 12월 24일

楽天グループ、1000円の大台回復なるか:SymphonyとAIが描く再浮上のシナリオ

Rakuten Group, Inc.4755
日本株

重要な要約

楽天グループの株価が996.90円まで上昇し、心理的節目である1000円台への復帰が視野に入ってきた。テクニカル指標は健全な上昇トレンドを示唆し、楽天シンフォニーによる海外展開の加速やAIサービスの拡充が好感されている。モバイル事業の赤字という重荷を背負いつつも、プラットフォーム輸出という新たな収益源が確立されつつある今、投資家はこの「変革の時」をどう捉えるべきか詳細に分析する。

かつて日本の携帯電話市場に価格破壊という名の革命を持ち込んだ楽天グループ。その挑戦的な姿勢は、長らく巨額の投資負担という形で株価の重石となってきました。しかし、2025年の師走を迎えた今、市場の空気には明らかな変化の兆しが感じられます。直近の取引で株価は前日比3.31%高の996.90円まで急伸しました。長らく投資家をやきもきさせてきた「モバイル事業の黒字化」というテーマに加え、グローバルな技術輸出企業としての側面が鮮明になりつつあるからです。この株価上昇が一過性のリバウンドなのか、それとも本格的な再評価の始まりなのか、多角的な視点から紐解いていきましょう。

まず、投資家の心理状態を映し出すテクニカル分析の側面から現在地を確認します。現在の株価水準におけるRSI(相対力指数)は61.68を示しています。一般的にRSIは70を超えると「買われすぎ」、30を下回ると「売られすぎ」と判断されますが、現在の60台前半という数値は極めて興味深い水準です。これは、相場に十分な勢い(モメンタム)がありつつも、決して過熱感があるわけではないという「適温」の状態を意味しているからです。分析スコアが69という高水準にあることも、ファンダメンタルズとテクニカルの両面でポジティブな評価が下されている証左と言えるでしょう。投資家たちは、単なる思惑ではなく、実需や具体的な材料に基づいて買いを入れている様子が伺えます。

その具体的な「材料」の筆頭が、楽天シンフォニーによる海外展開の進展です。12月23日に発表された、VEON傘下のBeeline Kazakhstanとの覚書(MoU)締結は、単なる一企業の提携ニュース以上の意味を持ちます。中央アジア市場において、Open RAN(オープン無線アクセスネットワーク)やAIを活用したネットワーク管理、そしてクラウドネイティブなインフラ構築を支援するというこの動きは、楽天が日本国内で血を流しながら構築してきた「完全仮想化ネットワーク」のノウハウが、輸出可能な高付加価値商品であることを証明しています。国内のモバイル事業がインフラ維持コストに苦しむ一方で、Symphony部門がソフトウェアライセンスやコンサルティングという高マージンの収益をもたらす構造が見え始めており、これがグループ全体の収益構造を劇的に改善させる「ゲームチェンジャー」として期待されているのです。

また、国内のエコシステム強化においても、AI活用が加速しています。12月24日にローンチされた「Rakuten Beauty Agent Beta」は、ユーザーのサロン選びを対話型AIがサポートするというものですが、これは楽天経済圏の強みである「データの深さ」を象徴しています。単なる検索サービスから、個人の嗜好に寄り添うコンシェルジュへの進化は、ユーザーの離脱を防ぎ、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を高めるための重要な布石です。金融、Eコマース、モバイル、そして美容や旅行といった生活サービスがAIによってシームレスに繋がることで、楽天経済圏の「重力」はさらに増していくでしょう。

財務面においても、市場の懸念は徐々に払拭されつつあります。12月18日に報じられたTikTok関連の売却契約などは、バランスシートの改善に寄与する動きとして好感されています。楽天モバイルの巨額投資に伴う社債償還のリスクは依然として投資家の脳裏にありますが、こうした資産の流動化やSymphonyの収益貢献が見えてきたことで、資金繰りに対する過度な警戒感は後退しました。アナリストによる公正価値(フェアバリュー)の推定値が1020円近辺にあることを見ても、現在の株価(約997円)は適正水準に収斂しようとする過程にあり、ここから1000円の大台を明確に超えて定着できるかどうかが、中期的なトレンドを決定づける分水嶺となるでしょう。

もちろん、リスクがないわけではありません。最大の焦点は依然としてモバイル事業単体の収益化タイムラインです。Symphonyが好調でも、国内モバイル事業の赤字幅が縮小しなければ、グループ全体の利益は圧迫され続けます。また、グローバルな通信業界は競争が激しく、Open RAN市場においても競合他社の追い上げは無視できません。2025年のガイダンスでは証券事業を除く収益で2桁成長が見込まれていますが、これが「利益」としてどこまで残るか、投資家はシビアに見極める必要があります。

結論として、現在の楽天グループ株は、長きにわたる「生みの苦しみ」の時期を脱し、収穫期に向けた入り口に立っていると言えます。テクニカル的には上昇トレンドの中にあり、ファンダメンタルズでは「モバイルネットワークの輸出」という強力な成長ストーリーが補強されました。投資家としては、目先の株価変動に一喜一憂するのではなく、Symphonyの契約が実際の収益として計上されるペースや、モバイル事業の損益分岐点到達の確度を確認しながら、1000円という心理的節目での攻防を注視すべき局面です。リスクを許容できる投資家にとっては、変革の果実を得るためのエントリータイミングを探る、非常に興味深い時期が到来していると言えるでしょう。

本レポートはInverseOneが分析した資料です。投資判断の最終責任は投資家本人にあります。本レポートは投資推奨ではなく、参考資料としてのみご利用ください。過去の実績は将来の収益を保証するものではありません。