株式市場には時折、ファンダメンタルズの重力を振り切るかのように上昇する銘柄が現れます。2025年の年末、まさにその「掉尾の一振」とも言える動きを見せているのが、半導体洗浄装置で世界トップシェアを誇るSCREENホールディングス(7735)です。12月30日の取引において、株価は前日比1.63%高の15,280円まで上昇し、多くの投資家が固唾をのんで見守る年初来高値の更新を目前に控えています。日経平均株価が軟調な展開を見せる中で、なぜこの銘柄に資金が集中しているのか、そしてこの上昇気流は2026年の新春相場まで続くのか。テクニカル指標と市場の深層心理を紐解きながら、その実像に迫っていきましょう。
まず、投資家の心理状態を最も端的に表すテクニカル指標、RSI(相対力指数)に注目します。現在、SCREENの14日RSIは69.91を示しています。教科書的な解釈をすれば、RSIが70を超えると「買われすぎ」と判断され、売りシグナルが点灯する警戒水準です。しかし、相場の現場における解釈はもう少し複雑です。69.91という数字は、確かに過熱感を示唆していますが、同時に「極めて強い上昇トレンドの真っ只中にある」ことも意味します。強力なモメンタムを持つ銘柄は、しばしばRSIが70を超えた状態で高止まりし、株価がバンドウォークと呼ばれるさらなる上昇局面に入ることがあるのです。分析スコアが「61」という中立からやや強気の位置にあることからも、市場は過熱を警戒しつつも、まだ上値余地があると判断している投資家が多いことが読み取れます。
この強気な値動きの背景には、明確なカタリスト(株価変動のきっかけ)が存在します。12月25日頃、モルガン・スタンレーMUFG証券が同社の目標株価を引き上げたことが、市場にポジティブなサプライズを与えました。この報道を受けて株価は約10%もの急騰を見せ、その後も押し目を形成することなく高値圏での推移を続けています。投資家掲示板などでは「1月の上げ相場への期待」や「目標株価20,000円」といった強気なコメントが飛び交い、個人投資家のセンチメントは「強気」に傾いています。特に、直近の出来高が100万株を超えていることは、機関投資家を含めた大口の資金が流入している証左と言えるでしょう。
しかし、ここで冷静な視点も必要です。足元の業績、すなわちファンダメンタルズを見ると、手放しで楽観できない現実があります。2026年3月期第2四半期の決算では、売上高が前年同期比1.1%減の2,742億円、営業利益に至っては20.2%減の464億円と、減収減益を余儀なくされました。半導体市場全体が回復基調にある中で、固定費の増加や一部装置の需要停滞が利益を圧迫している構図です。通常であれば売り材料となるはずの減益決算ですが、株価が上昇しているという事実は、市場がすでに「業績の底打ち」と「来期以降の回復」を織り込みに行っていることを示唆しています。株式市場は常に半年から1年先の未来を価格に反映するため、現在の株価上昇は、AI半導体の普及に伴う微細化プロセスの進展により、同社の洗浄装置への需要が再加速することへの「先行投資」であると解釈できます。
SCREENの強みは、なんといっても半導体洗浄装置における圧倒的な世界シェア(約40%)にあります。半導体の回路線幅がナノメートル単位で微細化すればするほど、製造工程における「洗浄」の重要性は幾何級数的に高まります。わずかなパーティクル(ゴミ)も許されない最先端のAIチップ製造において、同社の技術は代替不可能なインフラとなっているのです。この「技術的優位性」こそが、東京エレクトロンやレーザーテックといった他の半導体関連株と連動して買われる最大の理由であり、長期的な成長ストーリーの根幹を支えています。
需給面での駆け引きも見逃せません。信用取引の動向を見ると、買い残が増加する一方で、空売り(売り残)も増加傾向にあります。これは、現在の株価上昇を「行き過ぎ」と見て逆張りをする勢力が一定数存在することを示しています。しかし、株価がこのまま高値を更新し続けた場合、空売りをしている投資家は損失覚悟で買い戻しを迫られます。いわゆる「踏み上げ(ショートスクイズ)」が発生すれば、株価はファンダメンタルズを無視して真空地帯を駆け上がる可能性があります。掲示板で囁かれる「逆三尊の形成」や「16,500円への挑戦」といったテクニカルな観測は、こうした需給の歪みをエネルギー源としています。
では、投資家はどのようにこの銘柄に向き合うべきでしょうか。現在の株価位置は、期待と現実が交錯する非常にデリケートな水準です。短期的には、RSIが70を突破し、明確に15,500円の節目を超えてくるようであれば、モメンタムに乗った順張り戦略が有効でしょう。特に1月効果と呼ばれる年初の株高アノマリーが意識されれば、さらなる上値追いが期待できます。一方で、リスク管理も不可欠です。次回の決算発表は2026年1月下旬から2月上旬に見込まれています。ここで市場の期待に届くガイダンス(業績予想)が示されなければ、先行して上昇していた分、失望売りによる調整は急激なものになるでしょう。「窓埋め」を警戒する声があるように、急騰した株価には反動安のリスクが常につきまといます。
結論として、SCREENホールディングスは現在、半導体スーパーサイクルの再来を信じる強気派と、足元の減益を懸念する慎重派が激しく火花を散らす最前線にあります。69.91というRSIは、その熱気の高まりを象徴しています。投資判断としては、単に「半導体だから買う」という思考停止に陥るのではなく、15,500円という高値ブレイクアウトを確認してからのエントリーや、あるいは決算発表まで様子を見るという選択肢も賢明です。しかし、長期的視点に立てば、AI時代における「洗浄」の王者が持つポテンシャルは依然として巨大であり、押し目は絶好の拾い場となる可能性が高いでしょう。この年末年始、SCREENのチャートは、2026年の半導体相場を占う重要な羅針盤となるはずです。