私たちが毎日当たり前のようにブラウザに入力する「.com」や「.net」といったウェブアドレス。このインターネット上の「一等地」を独占的に管理し、世界中のウェブサイトから確実な賃料収入を得ているのがベリサイン(VRSN)です。テクノロジー業界において派手なニュースを提供する企業ではありませんが、同社は極めて安定したビジネスモデルを武器に、静かに、しかし確実に莫大な利益を生み出し続けてきました。そして今、このインターネットの「大家」とも呼べる存在に、予期せぬ新たな追い風が吹き始めています。それが、世界を席巻するAI(人工知能)ブームによるドメイン需要の急増です。
直近の株式市場において、ベリサインの株価は力強い足取りを見せています。直近の変動率が4.38%の上昇を示し、3月25日には3.62%高の249.87ドルで取引を終えるなど、20日高値を更新する勢いを見せました。ここで投資家として注目したいのが、株価の過熱感を示すテクニカル指標である14日RSI(相対力指数)です。現在のRSIは69.39となっており、一般的に「買われすぎ」の警戒水準とされる70のラインに肉薄しています。総合的な分析スコアも67と高水準をマークしており、これは短期的な上昇モメンタムが非常に強いことを意味します。ただし、RSIが70に到達する局面では短期的な利益確定の売りが出やすくなる傾向があるため、ここからの新規エントリーを検討する場合は、押し目を待つ忍耐力も求められるかもしれません。
同社の基盤がいかに強固であるかは、ファンダメンタルズのデータからも明らかです。直近の四半期決算では、売上高が前年同期比7.6%増の4億2,530万ドルとなり、市場予想を見事に上回りました。何より特筆すべきは、49.84%という純利益率です。売上の約半分がそのまま最終利益として残るこの驚異的な収益構造こそが、独占企業の最大の強みと言えます。EPS(1株当たり利益)は2.23ドルと市場予想にわずかに届きませんでしたが、経営陣は四半期配当を従来の0.77ドルから0.81ドルへと増額しました。年間3.24ドルとなるこの配当増額は、将来のキャッシュフローに対する経営陣の強い自信の表れであり、株主還元への積極的な姿勢を示すポジティブなシグナルです。
さらに市場関係者を強気にさせているのが、今後の成長ストーリーです。主力である.comドメインの総数は昨年12月末時点で1億6,100万件に達し、前年比で3%の着実な成長を遂げました。ここに拍車をかけているのがAI関連企業の台頭です。新たなAIサービスやスタートアップが次々と誕生する中、ビジネスの信頼性を担保するために「.com」ドメインを取得する需要が急増しています。シティグループのアナリストはこの「AIの尾風」を高く評価し、目標株価を280ドルに設定して「買い」を推奨しています。また、ザックス・インベストメント・リサーチも同社の投資判断を「買い」へと引き上げました。ウォール街のコンセンサス平均目標株価は292ドルとなっており、現在の株価水準(約250ドル)から見ても、まだ十分な上値余地が残されていると評価されています。
一方で、冷静な投資判断を下すためにはリスク要因にも目を向ける必要があります。第一に、インサイダー(内部関係者)の売却動向です。過去3ヶ月間で経営幹部を含むインサイダーが約234万ドル相当の株式を売却しており、直近の3月初旬にも複数回の売却が報告されています。また、機関投資家の保有率が92.90%と極めて高い中、一部の資産運用会社が保有株を大きく削減する動きも見られます。さらに、ROE(自己資本利益率)が大幅なマイナス(-40.40%)となっている点にも注意が必要です。これは優良な米国企業によく見られる、積極的な自社株買いによって会計上の自己資本がマイナス(債務超過状態)になっている結果である可能性が高いですが、金利環境が変化する中での財務レバレッジの状況には、念のため留意しておくべきでしょう。
総括すると、ベリサインは「インターネットのインフラ」という揺るぎない独占的地位を持ち、他に類を見ない高収益を誇る超優良企業です。そこにAIという新たな時代の波が加わり、成熟したと思われていたビジネスに再加速のシナリオが描かれています。テクニカル的には短期的な過熱感に警戒が必要な水準に達しつつあるものの、配当増額や強気な目標株価を考慮すれば、中長期的な視点での投資妙味は色褪せていません。市場全体が不透明感を増したり、ハイテク銘柄のボラティリティが高まったりする局面において、こうした「絶対に必要とされるインフラ」を提供し潤沢な現金を創出し続ける企業の株式は、投資家のポートフォリオに安定をもたらす強力なアンカー(錨)としての役割を果たしてくれることでしょう。