暗号資産市場におけるトレンドの移り変わりは、時に残酷なほど速く、そして鮮烈です。現在、Web3領域では「SocialFi(ソーシャル・ファイナンス)」が再び脚光を浴び、Lens ProtocolやFarcaster、あるいはSolana上の新たなSNSプロジェクトが次世代のコミュニケーション基盤として資金と注目を集めています。しかし、歴史を少し巻き戻せば、その源流には間違いなく「Steem(STEEM)」という巨人が存在していました。記事投稿に報酬を与えるという革新的なモデルで一時代を築いたこの先駆者は、今、市場の喧騒から離れた場所で静かに息を潜めています。今回は、かつての王者が置かれている現状と、投資家が読み解くべき無言のシグナルについて、テクニカルとファンダメンタルズの両面から深掘りしていきます。
まず、現在の市場心理を映し出す鏡としてテクニカル指標に目を向けてみましょう。直近の14日間のRSI(相対力指数)は「44.74」という数値を記録しています。RSIは一般的に30以下で売られすぎ、70以上で買われすぎと判断されますが、この40台半ばという数字は、まさに「迷い」と「無関心」の中間領域を示唆しています。強気相場への転換を示すほどの買い圧力はなく、かといってパニック売りが出るほどの悲観もない。いわば、市場参加者がSteemに対して明確な方向性を見出せていない状態です。
さらに注目すべきは、独自の分析スコアが「40」という低水準に留まっている点と、最近の変動率が「5.06%」であるという事実です。暗号資産の世界において5%程度の変動は凪(なぎ)のように感じられるかもしれませんが、ここで警戒すべきは「流動性の質」です。主要なニュースがない中での変動は、往々にして板(オーダーブック)の薄さに起因します。つまり、少額の大口注文が入るだけで価格が不自然に上下してしまうリスクを孕んでいるのです。これは、健全な取引による価格形成というよりも、過疎化した市場特有の不安定さと言えるでしょう。
ファンダメンタルズの視点からSteemの現在地を俯瞰すると、その孤立感はより鮮明になります。2020年に起きたTRON創設者ジャスティン・サン氏による買収騒動と、それに反発したコミュニティによる「Hive」へのハードフォーク(分岐)は、Steemのエコシステムに決定的な分断をもたらしました。現在、開発者の多くやアクティブなコミュニティはHiveや他の新興チェーンへと移住しており、Steemに残されたのは「かつての名声」と「固定化された一部のユーザー層」です。
直近1週間の動向を追っても、Steem本体に関する大型のアップデートや提携ニュースは皆無に等しい状況です。業界全体がビットコイン現物ETFの承認や、イーサリアムのレイヤー2ソリューション、AI銘柄への資金流入に沸く中で、Steemのような第一世代のソーシャルチェーンは、投資家のレーダーから外れつつあります。GitHubでの開発アクティビティも競合と比較して低調であり、技術的な優位性や将来のロードマップが見えにくい点は、長期投資を検討する上で大きな懸念材料となります。
では、Steemには投資価値が全くないのでしょうか? 必ずしもそうとは言い切れません。ここには「レガシー資産」特有の論点が存在します。一つは、長期間にわたりネットワークが停止することなく稼働し続けているという実績です。ブロックチェーンとしての最低限の信頼性は担保されており、既存のSteemitプラットフォームには膨大なコンテンツデータが蓄積されています。これらを活用した何らかの再評価や、突発的な投機的需要が発生する可能性はゼロではありません。
しかし、投資家として冷静に見極めるべきは、その「機会」と「リスク」のバランスです。現在、Steemへの投資を検討する場合、最大の敵は「流動性リスク」と「機会損失」です。取引板が薄いため、いざ利益確定や損切りをしようとした際に希望価格で約定しないスリッページが発生しやすく、また、他の成長分野(AIやRWAなど)が上昇する中で、資金が塩漬けになることによる機会損失は計り知れません。さらに、古いアルトコインは取引所の方針転換により上場廃止(デリスト)の対象となるリスクも常に隣り合わせであることを忘れてはなりません。
結論として、現在のSteemは「眠れる巨人」というよりは、「静寂の中にある歴史的遺産」という評価が妥当でしょう。テクニカル指標は、相場が次のアクションを起こすためのエネルギー不足を示しており、ファンダメンタルズも現状維持の域を出ません。もしポートフォリオに組み込むのであれば、それは長期的な成長への期待というよりは、極めて短期的な循環物色を狙った投機、あるいはコミュニティへの愛着に基づく保有という色彩が濃くなります。
賢明な投資家であれば、単に価格が安いから、あるいは名前を知っているからという理由だけで飛びつくのではなく、Hiveなど競合とのアクティビティ比較や、取引所ごとの出来高推移を丹念に観察する必要があります。静かな水面の下には、安定ではなく停滞が潜んでいることもあるのです。Steemが再び表舞台に立つ日が来るのか、それとも静かに歴史の一部となっていくのか。その答えは、新たな開発の鼓動が聞こえてくるかどうかにかかっています。